インドネシア熱帯林経営のFSC認証林視察報告

          特定非営利活動法人 むさしの・多摩・ハバロフスク協会
                       安藤 栄美
                    Borneo University Tarakan
        本江一郎・有薗健志

1.日程および視察場所について

 2011年2月21日~22日にかけて実施。
インドネシア共和国 東カリマンタン州セサヤップ河流域にあるイントラカウッド社所有の産業用林、FSC認証林および その森林より生産される木材の加工工場(タラカン島)を視察。今回は幸運にも、同社販売部長ボブワニ氏の同行を得て、見学することができた。

所有森林の面積は約155,000ヘクタールで96%は、Latosol とLitosolの混合土で、残り4%は、赤黄Podsolik、ケッペンの気候区分ではAf型の熱帯雨林気候である。
 降水量の変化は、比較的少なく、年を通じてほぼ同じ降水量であるとのこと。
 このことが、伐採や運材作業にとって大きな障害になっている。
 樹種は主に赤メランティ、黄メランティ、白メランティなどのメランティ類/Dipterocarpa、アピトン/Keruing、カポル/Kapur、ケンパス/Kempas(マメ科の広葉樹)である。

Tarakan N. 3°16'33.92" E.117°37'9.84"


2004年から2008年までの月別平均降水量


2. イントラカウッド社の設立と森林の内容と面積について

 1988年に政府所有の公社と民間企業とが事業協力をして設立した合弁会社であったが、2006年からは、完全民間会社となり、その4月にFSC認定証を取得した。
 企業方針を恒久的、継続的な森林事業分野における企業として第一人者となること、企業目標は第一に合板生産を中心とする森林業の開発と発展 第二に所有地内の森林の部分的永久保護の2点を掲げている。
 イントラカウッド社の事業活動範囲にある森林面積の内容を下表に示した。



表1.イントラカウッド社の事業活動範囲にある森林面積

森林部 区分合計
原生林2次林 
非森林部
面積面積面積面積
ヘクタールヘクタールヘクタール へクタール
生産制限林 28,010 14 20,309 10 0 0 48,319 25
生産林 4,683 2 128,622 66 6,196 3 138,441 71
特別保護地区 1,057 1 7,076 4 217 0 8,360 4
合計 33,650 17 155,047 80 5,413 3 195,110 100

(※)FSCについて   
出典:http://ja.wikipedia.org 
参照:http://www.wwf.or.jp

 FSC(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)は、木材を生産する世界の森林と、その森林から切り出された木材の流通や加工のプロセスを認証する国際機関。1993年10月にカナダで創設されたNGOで、生産を行う森林や製品、流通過程の評価、認定、監督を行う。機関の構成員は、世界各国の環境保護団体、林業経営者、木材業者、先住民族、森林組合など。 現在の国際本部はドイツのボンに置かれている。
FSCが評価・認証する森林認証制度のFSC認証は二つの形態があり、FM認証(Forest Management Certification)は森林の管理・経営を対象として適用され、認証森林の林産物を加工・流通過程の管理を対象としたCoC認証(Chain of Custody Certification)は林産物がFM認証林その他FSCの定める基準を満たしたものから生産されたものであることを保証してラベリングを行う制度である。その認証は、森林の環境保全に配慮し、地域社会の利益にかない、経済的にも継続可能な形で生産された木材に与えられるため、FSCのマークが入った製品を買うことで、消費者は世界の森林保全を間接的に応援できる仕組みである。

3. 森林育成システムと森林資源管理について

 インドネシア選抜伐採植林法(Tebang Pilih Tanam lndonesia)のシステムに従っている。イントラカウッド社に許可されている森林利用期限は、2049年までに9回の5ヶ年計画が実施される。その伐採許可面積は年間3,972ha、年間伐採許可量は、14万5,760㎥となっている。

4. 森林の伐採について

 適正管理伐採搬出(proper and controlled logging)のシステムでは、ダメージ軽減伐木搬出法(reduced impact logging)を用いている。
 この伐採法では、樹種の太さ・木質・木の育つ場所の土やその周辺の住民習慣に至るまでインドネシアの基準にもとづいて伐採木を選択。
 伐採やその搬送には、従来型のCAT D7 G型ブルドーザー、林道を作るためには、CAT D8H、CAT D7G、CAT D6型ブルドーザー、掘削機、地ならし機、ダンプトラックなどを利用。
 伐採地の区分は地理情報システム等のソフトを利用して管理がなされている。

5. 森林伐採の影響の監視

 イントラカウッド社では、自然保護協会の協力のもと、特別森林保護地域を指定し、多様な樹木の繁殖形態が保持されている地域を伐採禁止としている。さらに周辺住民からの情報収集の結果、墓地やミツバチが巣をかける樹木など住民の必要とする樹木を確認し、禁伐としている。   また、森林伐採が及ぼす環境影響についても観察を継続している。

6. 社会奉仕活動の実施

 イントラカウッド社管理地域及びその周辺には、36の村落が存在する。地域住民との協調は、重要な課題となっている。そのため、森林地域住民指導プログラムとして、農業・漁業・大工・商業などの職業訓練プログラムを実施した。
 これをさらに発展させてコミュニケーション・フォーラムを開催した。 このような対話の結果、会社側と住民の間で補償・援助・資源活用などの点で合意がなされ、社会奉仕活動なども行なわれている。
 教育援助プログラムの一環として、中学生の奨学金設立や地域住民が必要とする、個人的利用を目的とした樹木の伐採、狩猟、樹木以外の資源の利用も可能である。
 さらに住民森林開発プログラムとして、20年以内に収穫できる早生樹で、今後の利用が期待される樹木(Anthecephalus)の苗木を配布し、個人所有林や空き地に植林し、利益を均等分割する形も薦めている。これにより、将来的に住民の収入が向上し、合板企業への原木の安定的な供給が可能になれば、原生林の伐採を軽減できる。

7. 写真による状況説明

1  東カリマンタン州の上空写真    
  • 所々に石炭露天掘り炭鉱や油ヤシ植栽地があるものの、緑深い森は延々と続いている。(図1,図2)
  • 河口付近には、まるで水田ように見える面積が一面10ha規模の無給餌無投薬の天然養殖型のエビの養殖場が広がっている。(図3)
図1 図2 図3

2  川から見た森の様子
  • 島から島へは、スピードボードに乗って移動し、海から川へと進んで行く。通常の商用移動は、スピードボードを用いる。伐採地があるスカタックキャンプに上陸。(図4,図5)

図4            図5


3  苗畑
  • 植林のための苗畑も大掛かりなもので、力を入れている。

図6 FSC認証森林の苗畑       図7 在来樹種 メランティの苗


図8 在来樹種メランティの苗


図9 在来樹種メランティの苗 日覆いをなくし順化中


4  FSC対応苗畑の見学。FSC対応の列状植林地の見学。
  • 誤って外来早生樹種が植栽された場合、FSC認証機関のインスペクターにより植栽木の変更が要求される。

図10 メランティの列状植栽

図 11  2008年植栽   
5 バングリスの大木の前で記念写真 

  • ミツバチが巣をかける樹木で板状根を有している。

図12


6 植林地のベースキャンプ RIAN
  • イントラカウッド社植林地のベースキャンプ RIANの事務所前で記念撮影

図13


7 ベースキャンプ近くからの眺め
  • 中央に細々と滝が流れる山が見える。(図14)
  • 森の中を車で走って行くと、植林地にはアカシアやセンゴンが多くみられ、実をつけたパンノキやタラップ(Terap)さらに、陸稲、バナナ、パーム油を取るためのアブラヤシの畑もあった。

図14

図15 センゴンとジャボンの混植林


8 伐採現場
  • 伐採地と丸太を積載したトラック。(図16)粘土で舗装された木材運搬道は適度の水分状態で快適であるが、水分が過剰になるとぬかるみになり、抜け出すのに苦労をする。

図16 FSC認証天然林より搬出されるメランティー類

図17 伐採された植栽木センゴン

       
9 試験植栽の様子
  • 事務所付近や伐採地近くに、いくつか試験植栽地があり観察が行われている。

図18 植栽後16ヶ月目のジャボン

図19 植栽後3ヶ月目のチーク

               
10 チークの試験植栽
  • ジャワ島よりカリマンタン島に苗木を移動する場合、国内植物検疫上の理由から土がつかないことが条件となる。このため、このようなスタンプ苗が多用される。(図20)
  • チークの初期生長は早く、幼樹の時は他の樹木より十分に太陽光を受ける事が出来る。その後は、安定した肥大生長を続けるため材質は良好である。

図20 チークのスタンプ苗

図21 スタンプ苗からの発芽の状況

図22 植栽後7ヶ月目のチーク


11 ジャボンの芽と苗畑
  • 近年注目の早生樹もジャボンも種から育苗を行っている。ほかにもセンゴンの苗木を生産している。

図23  ジャボンの発芽

図24 山出し前のジャボン苗木

図25 植栽後9ヶ月目のジャボン

図26 14年生のジャボン

      
12 ミツバチが巣をかける樹木
  • 森の中で、他の木々よりも群を抜いて高い白い幹の木が目に付く。ミツバチ が巣をつくり、村人がその蜜を商品とするため、伐採が禁止されている。

図27 ハチミツの木とも呼ばれるバングリスの巨木 

図28 枝にぶら下がるように作られるミツバチの巣

         
13 川から搬出現場(カリマンタン側)
  

図29 伐採された植栽木の積み出し作業

図30 伐採された植林木アカシアおよび早生樹ジャボン

   
14 住民が切り出した材木
  • 地域住民の個人的目的での伐採は認めており、道端に出して集めて貰う。

図31

 
15 加工工場の船着き場(タラカン側)
  • カリマンタン島(ボルネオ島)で伐採され運ばれた丸太にはFSCラベルが貼られ、工場敷地内に貯木されている。

図32 FSCラベルの貼られた原木。割れ防止のため、S管が打ち込まれている

図33 専用のバージで自社林より直接運ばれる

図34 FSC認証のラベル

       
16 接着剤を運んで来た船
  • 木材加工工業では、接着剤の安定的供給は不可欠である。
  

図35 接着剤の運搬船

          
17 加工工場
  • 今まで確かに切り出された状態のままであった木材が、機械を通ると、まるで大根の桂剥きをするようにベニヤ板になって、続々と出てくる。その刃は定時的に交換しながら、研磨して利用している。
   

図36 合板工場内。ロータリーレースにかけられる前の中芯用の原木

図37 ロータリーレースより出てくる連続単板

                  
  • 3枚を直角の繊維方向に張り合わせ、熱圧をかけ合板となる。日本向け合板は、色ムラや水分量、ホルマリン濃度も厳密に管理されている。
  • 出来上がった製品には、一枚一枚FSCラベルが手では貼り付けられていく。 このように努力された薄物合板が一杯のコーヒーの価格より安いのは理解に苦しむ。
 

図38 接着剤塗布後に行われる冷圧。こののち熱圧が行われる

図39 乾燥後の水分管理状況。規定値より高い場合、再乾燥となる

図40 一枚ずつFSCのラベルが貼られる

図41 出荷を待つ薄物合板

       
18 工場敷地内の施設(学校・宿舎など)
  • 工場は、3交代制で稼働しており、男女の宿舎や持家、保育所や学校まで完備され、約6千人を雇用し、人口約19万人のタラカン市の重要な産業となっている。

図42 工場内の小学校